膨大な情報が波のように押し寄せ、真実が見えづらい世になった。ネット交流サービス(SNS)を介し、陰謀論やデマにはまり込む人は後を絶たない。長年にわたりスローライフ運動を展開してきた文化人類学者の辻信一さん(71)は、今こそ「分からない」に時間をかけてつき合う力が必要だと説く。
【画像まとめ】能登地震時に投稿されたデマ 実際は3.11の津波
――「ムダ」が忌避される傾向が強まっている、と著書で指摘しています。
◆「タイパ」(タイムパフォーマンス)という新語が象徴的です。ムダの反対は「役に立つ」。役に立つことはいいことで、役に立たない、つまりムダは悪いこと。一見すると疑う余地はありません。でも役に立つということが、ある種の強迫観念になりつつあるのではないか、という問題提起です。
――スマートフォンの普及やAI(人工知能)の台頭などで以前より便利にはなりました。
◆人間はますます、高度なテクノロジーと競争しなければならなくなっています。まるで自分が機械の部品のように、取り換え可能な存在だということに目を向けざるを得なくなる。これが今の社会が到達している場所だと思います。
――検索窓に疑問を打ち込めば、「答え」や解決策は瞬時に見つかります。
◆今ほど「ネガティブケイパビリティー」が重要な時はありません。この言葉を日本に紹介した精神科医で作家の帚木(ははきぎ)蓬生(ほうせい)さんはこれを「答えの出ない事態に耐える能力」と定義しました。
――ご自身の言葉で訳すとしたら、どうですか。